「あ、土師くんアイスありますよ!」
ジリジリと日の照った夏の昼下がり。
まるで子どものような言動で、その召喚獣は自らの主を呼んだ。(ただし真顔)
手招きされた主であるアバターの青年は苛立ち混じりのため息をつく。
「お前、寒がりだったろ」
「部屋の炬燵で食べるんで大丈夫です」
青年は召喚獣の指差すアイスと自分の財布を見比べ、そしてもう一度深いため息をついた。
結局のところ、彼はこの召喚獣に甘いのだ。
得意の戦闘で得た、けして多くはない有り金と冷えたアイスを交換する。
金を惜しんだとはいえ暑いのが苦手な青年は、満更でもないように手に入れたいちごみるく味のアイスにかじりついた。
何の気なしに一口含み、炬燵で食べると言った同じ味のそれを手に持った召喚獣を振り返った途端。
「えっ?」
まるで音を立てるように顔に熱が集中する。
先ほどまで何を考えることもなく見ていた彼の姿を直視することができない。
例えば、手を握りたいだとか。
例えば、抱きしめたいだとか。
例えば、キスをしたいだとか。
今まで感じたことのない欲求を目の当たりにし、青年は必死に召喚獣から視線をそらした。
そんな青年を心配したのか、召喚獣は訝しげな目をむける。(ただし真顔)
「土師くんどうしたんですか?顔が赤いですよ」
「…暑いからじゃねえのか」
「熱でもあるんですか」
悪気などひとかけらもあるはずもなく、召喚獣は青年に顔を近づける。(ただし真顔)
無論、心配して熱を計るためである。
しかし理性と格闘する青年にとって、その行為は殺人行為にも等しかった。
段々と近づく顔。(ただし真顔)
微かに香るこんがり肉のにおい。
それは崩壊させるには充分すぎるほどの。
気がつけば青年の腕は召喚獣の後頭部に伸びていて、額を合わせようとする召喚獣の行為とは裏腹に、合わさったのは唇であり。
「えっ、まさかの人工呼吸ですか?」
些か困惑したような声に、我に返った青年は頭を抱える。
誤魔化すように首を振るも、頬の熱さはごまかせない。
今すぐこの場から逃げ出したいと思いつつ、心の中でゲームのルールを反芻した結果そうもいかずに青年はひたすら100mルールを恨むのであった。
【メロメロウイルスの効果がきれるまであと2時間30分】
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もうだめだ
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